第2話 「トラブル」   (作・如月)
 

 
 

詩織・・・
切なそうにドアをみつめる愛子を見て、これで良かったのか?という思いがこみ上げてくる。

「愛子、本当によかったのか?」
正直俺と付き合うべきだとは思っていたけど、詩織はあんなに可愛いし、もったいない気もする。あの詩織の取り乱し方を見る限り、二人はとても上手くいっていたんだろう。
「いいの。詩織はきっとわかってくれる。今はきっと突然のことで驚いて混乱しているだけよ。落ち着いたらきっと大丈夫。それより、あたしはあなたを失いたくないの。男の人に対してこんな気持ちになったのは初めてだから。あなたと別れたらきっと後悔する。もう二度と男の人とは付き合えないと思う。」
「愛子・・・」
嬉しかった。愛子がこんなに俺のことを必要としてくれているなんて。
レズビアンだろうがなんだろうが愛子は愛子だ。
これからも愛子とはうまくやっていけるだろう。
俺は愛子を抱き寄せ、そっとキスをした・・・。

 

それから一ヶ月。俺たちはどこからどう見ても普通のカップルだった。
バイトの帰りに食事をしたり、週末には手をつないで街を歩き映画を見たりした。
ときどき俺の家に泊まりに来て、朝俺の腕の中で丸くなって眠っている彼女の寝顔を見ていると、とても幸せな気持ちになった。
愛子がバイトの女の子や学校の女友達と遊んでくると聞くと、まだ少し違和感を覚えるけど、そのうち気にならなくなるだろう。俺たちには何の問題もない。そう思っていた・・・。

 

でもそんな普通の幸せは長くは続かなかった。思いもよらない出来事が起こったのは、俺がバイトの後に愛子の家に行き、二人で借りてきたDVDを見ているときだった。

『ピンポーン』

「誰だろう?こんな時間に。」
愛子はDVDをいったん停止し、玄関のドアを開けた。
「詩織!?どうしたの!?」
愛子の叫び声に驚き玄関に駆けつけた俺が見たものは、泥だらけの格好で愛子の胸で泣きじゃくっている詩織の姿だった。
「とりあえず中に入って!慎くんタオル持ってきてくれる!?」
愛子に言われて、俺は詩織にタオルを手渡した。
愛子は泣いている彼女を支えて、部屋の中に連れて行った。

それからしばらく詩織は泣き続けたが、ようやく落ち着いてきたのか少しずつ理由を話し始めた。
「愛子が・・・男の子と付き合うって言うから、あたしも男の子と付き合ってみようと思って。」
「男の人と付き合ったの!?それで・・・何があったの?」
愛子が心配そうに尋ねる。
「友達に紹介してもらったの。いい人だよって言うから。わたしがあまり男の子に慣れてないって話してくれたみたいで、最初はとても優しくしてくれたの。
二人で遊びに行くのもだんだん慣れてきたんだけど・・・。でもやっぱりだめなの。
わたし男の人とはキスできない。
でも、今日デートした帰りにキスされそうになって。拒んだら彼・・・こんなんで付き合ってるって言えるのかよ!って。押さえつけられて無理矢理されそうになったから逃げてきたの。
やっぱりだめだよ。あたしは愛子みたいに思えない。あたしは男の子とは付き合えない。女の子じゃなきゃ・・・愛子じゃなきゃだめだよ。」
詩織は愛子の手を握って、また泣き出してしまった。

「その男の人が悪いんだよ。もっと詩織のこと大切にしてくれる人がきっといるよ。」
なんて愛子は言ってるけど、俺はその彼氏が気の毒で仕方なかった。
(あんなに可愛いんだもんな。男に慣れてないって言ったってキスくらいしたくもなるよな。それ拒まれたら・・・まあ逆上したくもなるよなあ。)
そう彼氏に同情していたら、突然詩織が言い出した。
「でも愛子もこの人以外はだめなんでしょ!?じゃあわたしも慎くんと付き合う。」
俺は自分の耳を疑った。(俺と付き合うだって!?突然何言い出すんだよこの子は?)
そんな俺の思いをよそに詩織は話を続ける。

「でも、本当に付き合うわけじゃないの。わかってるよ慎くんは愛子の彼だって。だから、男の人に慣れるために少しつきあってくれればいいの。リハビリみたいなもの。
愛子が大丈夫だったんだからあたしも大丈夫かもしれない。ね?愛子・・・だめかな?」
(・・・まったく何言ってるんだよ。俺だって普通の男だって。そんな期待されても困るし。まあ、でも詩織ちゃん可愛いしな。結構好みではあるんだよなー。ちょっと付き合ってみたい気もするけど。あ、でもキスもさせてくれないのか・・・)
なんて俺が考えていると、愛子は「仕方ないなあ。でも詩織にひどい目にあって欲しくないし。きっと慎くんなら詩織も大丈夫だと思う。ちょっと付き合ってみるのもいいかもね。」なんて言ってる。

(おいおいマジかよ!?俺が他の女の子と付きあってもいいわけ?あ、でも本当に付き合うわけじゃないのか・・・。リハビリって何すりゃいいんだよ。どこまでOKなんだ?遊びに誘ったりすればいいのか?手ぐらいつないでもいいんだよな・・・。)
そんな俺の葛藤には気づかず女2人は盛り上がってる。
「じゃあ、あたしは土曜日バイトだから、詩織土曜日に慎くんとデートしてきなよ。」
「わかったー。あ、愛子が慎くんと遊びたい日は先に言ってね。愛子の彼氏なんだから愛子が優先ってことで。」
「詩織のリハビリのために頑張ってよね。慎くん!」
笑顔で愛子に言われたけど、俺は驚きと動揺を隠し切れないでいた。
(あーマジかよ。ようやく普通のカップルっぽくなれたと思ったのになあ・・・。)

こうして俺は、世間の男達が聞いたらきっとうらやましがる?であろう彼女公認で二股をかけることになったのである。

つづく

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